禁呪(結)

334『禁呪(結)』 ◆iF1EyBLnoU:2014/07/07(月) 22:15:10 ID:YR/48AOI0
『禁呪(結)』

 その日、朝から妙な胸騒ぎがしていた。
『『不幸の輪廻』の活動が活発化している。』と、警戒の通知が来たのは半月ほど前。
しかし、未だ大した事は起きていなかった。このまま何事も無く、そう思っていたのに。
いつも通りにおやつ、午後のお茶とお菓子の準備をしていたら、地面が大きく揺れた。目眩。
姫の大学は既に春休みに入っていたから、家族は全員お屋敷にいた。まさに不幸中の幸い。
しかし、それを喜ぶ事は出来なかった。TVの画面に次々と映し出される 信じられない光景。
未曾有の大災害。多くの命が失われた。
一族もかなりの被害を受け、それからの数ヶ月、俺たちは多忙を極めた。
葵さんと暁君に翠と藍を預け、『上』の指示で彼方此方飛び回る日々。
久し振りに姫の大学を訪れたのは、姫の休学届を出すためだった。
学務課で書類を提出し、2人遠回りをして車に戻る。
第5駐車場、入り口脇のベンチに男が座っていた。 タケノブさん。

335『禁呪(結)』 ◆iF1EyBLnoU:2014/07/07(月) 22:17:50 ID:YR/48AOI0
「どうも随分と、酷いことになってるみたいだね。」
第5駐車場脇のベンチ。 タケノブさんは小さく呟いて、目を伏せた。
「はい。それで私たち凄く忙しくて。今日は休学届を出しに来たんです。」
「そうか...でも、仕事が落ち着いたら、戻ってきてくれるよね?」
「私、今度の事で色々考えました。それで、決めた事があるんです。」
「何だい、それは?」
「仕事が落ち着いたら、私、子供を産みます。」
鳥たちの声、昼前の駐車場には、以前と変わらず穏やかな空気が満ちていた。
「そうか。君とその子の幸せを祈ってると、僕は言うべきなんだろうね。少し、寂しくなるけど。」
「○▲、あなたの2人目の話し相手。前に話してくれましたよね?」
「ああ、君たちの一族ではありふれた名字って話だね。」
「その人、私たちのお師匠様のお父様でした。今は私たち一族の当主様です。」
「やっぱり君たちの血縁か。何となく、雰囲気が似てると思ってたよ。」
「だから、寂しくないですよね。」
「え?」
「もし、私がこの大学に戻って来なくても、私たちの子供がこの大学に入学するかも。
そしたらその子達に、この大学や私たちのこと、話してあげて下さい。」
「ははは。なるほど、そうか。君たちの子供、もしかしたら孫も。承知した。
その日が来るのを、楽しみに待ってる。」

336『禁呪(結)』 ◆iF1EyBLnoU:2014/07/07(月) 22:21:29 ID:YR/48AOI0
 お屋敷に向かう車の中、姫は助手席の窓から外を眺めていた。
未だ心臓の高鳴りは収まっていない。 『私、子供を産みます。』 姫はそう言った。
「タケノブさん、きっとあれで納得すると思いますよ。最高の対応でした。」
「納得して貰わないと困ります。ホントのことですから。」
「え?」
「もう少しで仕事も落ち着くし、そしたら子供が出来るまで、夜はずっと一緒にいて下さいね。
Sさんに話したら、喜んでくれましたよ。きっと男の子。何だか、そんな気がします。」
姫がそう言うなら、男の子なんだろう。一緒に良い名前を、考えなくては。
愛が生まれる前に考えた名前の候補を幾つか、ゆっくりと思い出していた。

『禁呪』 完

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